東京地方裁判所 昭和37年(ワ)4738号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕法定地上権が生じるという期待をもつた建物抵当権者を害する目的で、土地所有者が土地のみを第三者に譲渡して建物収去を第三者と合意したような特別の事情があるときは、右抵当権者は建物収去土地明渡の強制執行に対し第三者異議の訴を提起することができる。
〔事実と争点〕原告は訴外医療法人社団外塚病院からその所有の本件建物につき、債権元本極度額一、〇〇〇万円の根抵当権の設定を受けていたが、訴外病院は被告から提起された本件建物収去土地明渡請求訴訟において、昭和三七年三月二日その請求を認諾した。原告は、右債務名義は通謀虚偽表示、詐欺、要素の錯誤または公序良俗違反による無効のものであるとして、訴外病院に代位して請求異議の訴を提起するとともに、第二次的に、本件認諾は本件建物敷地についての借地権の放棄を含み、これは被告と訴外病院とが故意に原告の権利を侵害し不法な利益を得るため通謀してしたものであつて、原告には対抗し得ず、原告は本件建物の収去を妨げる実体上の権利ありというべきである旨主張して、第三者異議の申立をした。
判決は、右第三者異議の申立について、抵当権者が第三者異議によつて保護さるべき場合があることを次のように判示している。
〔判決理由〕そこで右抵当権が所有権その他執行を妨げる実体上の権利に当るかどうかを判断する。一般的に抵当権は目的物を使用収益する権能は持たないから、執行を妨げる権利に該当しない。が建物を独立の不動産とした法の趣旨を考えると、土地所有者の恣意を防ぐため特に法定地上権が生じるという期待をもつた建物抵当権が右の権利に当るとすることが考えられぬでもないが、そうだとすると、土地所有者は右の抵当権がある限り建物収去を求めえなくなるであろう。従つて右のような抵当権があるからといつて直ちに第三者異議の事由を主張しうるとするわけにはいかない。一方、法定地上権が生じるという期待をもつた建物抵当権者に対し、土地所有権者が抵当権者を詐害するため土地のみを第三者に譲渡して建物収去を第三者と合意したとき、抵当権者が拱手傍観せねばならぬとすることも不当である。従つて土地所有者と第三者との間に抵当権者に対する詐害の意思があるという特別の事情があるときに限り、抵当権者を保護すれば足りる。そしてこの特別事情は単に請求の認諾という外形からのみでなく、実質的に判断しなければならない。原告は請求の原因第四項で、被告と訴外病院の原告に対する詐害の意思を述べて右特別事情の存在を主張しているので、この点について判断するに、その他本件各証拠によつても被告の詐害の意思を認めるには充分でなく、却て……によれば、被告が原告の抵当権の存在について関心を払わなかつた点があつたとしても、これを侵害する意思は毛頭なかつたことを認めることができる。従つて、原告の主張はこの点についても理由がない。(石田哲一、滝田薫、前川鉄郎)